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更新日付:2024年2月19日 地域交通・連携課

AOMORI LIFESHIFT人財インタビュー18 渡邊 智子 さん

44歳からコーヒー焙煎を学び、51歳で自宅に工房をオープン
「主婦ブロック」をはずして挑戦したら、自分も家族も変わった。

渡邊氏写真
1970年大阪府出身。子ども服メーカーの販売スタッフを経て、1992年に結婚し、専業主婦に。夫の転勤で引越しを繰り返しながら、2男1女を出産。2005年、兵庫県川辺郡猪名川町で暮らしはじめる。2016年珈琲焙煎工房みさご珈琲第10期珈琲マスター講座修了。自家焙煎珈琲「天使のはしご」としてイベント出店、コーヒー豆販売、コーヒー講座の講師などの活動を始める。2022年4月、自宅に焙煎工房をオープン。

母でもなく、妻でもなく、自分が楽しいことって何だろう?

「大人になんてなりたくない。大人になっても楽しいことなんかなさそうやから・・・」
中学生だった次男が放った言葉に胸がどきんとしました。次男の描く「大人」に私自身の姿を重ね合わせたからです。

このころ次男は学校になじめず、家にこもっていました。つらそうな我が子を見て、何かしてあげたいのに、何もできない。不甲斐ない自分に苛立ち、落ち込みました。今思えば、夫も同じだったのでしょう。やり切れなさをひとりでは抱え切れず、おたがいが心の中で相手を責めるような時期が続き、私と夫との関係は冷え切っていました。

子どもたちにとって一番身近な大人は私たち夫婦。私自身が楽しく人生を過ごして、「大人になっても楽しいことはあるんだよ」ってお手本を見せたいと思いました。でも、次の瞬間、「はて、私、何が楽しいんだろう」と立ち止まりました。21歳で結婚して専業主婦になり3人の子どもに恵まれて毎日を忙しく、それなりに楽しく過ごしてきたけれど、「母でもなく、妻でもない自分がやりたいこと、楽しいことは何だろう」と考えると、何も思い浮かばなかったんです。

長女が小学校に上がったのを機に週に数回、ゴルフ場のレストランでパートを始めたものの、マダニに刺されて入院することに。1年かけて回復し、今度は介護ヘルパーの資格をとって仕事をはじめた矢先に、バセドウ病を発症。副作用で2か月入院し、退院後も体調がすぐれない日々を過ごしました。つらかったです。「毎日を楽しく過ごす母の姿を子どもに見せたいのに、なんで私はこうなんだろう」って。

「主婦ブロック」をはずして、コーヒー講座に申し込んだ

それでも時間をかけて回復し、「ちょっと何かやろうかな」と思ったころに出合ったのがコーヒーでした。きっかけは、家のすぐ近くにオープンしたカフェでパートを始めたこと。コーヒーはもともと得意ではなかったのですが、そこで飲ませていただいた自家焙煎のコーヒーが思わずおかわりをしたくなるほどおいしかったんです。初めてコーヒーに関心を持ち、豆を買わせてもらって家でも飲みはじめました。 

一方で、知識がないから、お客さんにコーヒーについてたずねられても答えられなかったんですね。コーヒーについてもっと知りたいと思うようになったころ、近所で単発のコーヒー講座が開催されることを知り、行ってみました。その講座で講師をされていた珈琲焙煎工房「みさご珈琲」の向井務さんが、今の私の師匠です。

その後、焙煎技術を学べる本格的な講座を始めるとご案内をいただき、「行きたい!」と思いました。でも、送り迎えをしている次男のテニスと時間が重なっていて難しそうだったし、受講料は主婦の私には高額。私がパートで稼ぐお金の数ヶ月分です。当時の私は誰に言われたわけでもないのに「主婦の私が自分のことにお金や時間を使ってはダメ」と自分をブロックしていたので、ものすごく迷いました。

でも、やっぱり心の奥でやりたかったんでしょうね。締め切り時間直前、ふと我に返ったら、Webサイトの申し込みボタンをクリックしていました。ボタンを押したことで覚悟が決まり、家族には「行くことにしたから」と明るく報告。すると、意外にも次男はあっさり「わかったよ」と認めてくれて、送り迎えの時間を調整して乗り切ることに。夫も「へえ」と言っただけで、拍子抜けしたのを覚えています。「物事を決断すると、自然と周囲もその方向に動くのかもしれない」とこの時に思いました。

コーヒー講座で仲間ができて、一気に世界が広がった

「みさご珈琲」の講座に通いはじめたのは44歳の時。「コーヒーが好き」というだけで年齢も職業も男女も関係なく話せる仲間ができ、一気に世界が広がりました。1年間の講座を卒業するかしないかという時期に、介護ヘルパー時代の上司の方から「うちの協会でコーヒー講座をやってくれない?」と連絡をいただきました。当時、誰かに近況を聞かれたらコーヒーのことを話していました。言葉にしていたら、何となく進むんですね。 

「私が講師をやるなんて、無理です」とお断りしたのですが、「みんなでおいしいコーヒーをワイワイ飲めたらいいだけだから」とうかがい、「それならば」とお受けしました。ところが、当日、会場に入ってびっくり。自分よりも年上の方々が40名近くも集まってくださっていたんです。緊張で声が震え、何を話したのかも覚えていません。 

次があるとも思っていなかったのですが、元上司が今度は知人を紹介してくださって、地域の高齢者サロンで講師を務めさせていただくことに。そんなご縁がつながって、いろいろな方から「こんなことできる?」「あんなことできる?」と声をかけていただき、講師、自家焙煎豆やオリジナルドリップパックの製造、地域のイベントでのコーヒー屋さん出店…と活動の幅が広がっていきました。

心がけたのは、いただいたお話に“Yes”で答えること

そんな調子でただ目の前のことを必死でこなしてきただけなのですが、ある時期から心がけたのは「いただいたお話に“Yes”で答えること」です。当初は「できるかな」とためらうこともありましたが、転機はコーヒーの活動を始めて2年経ったころ。師匠が担当しているコーヒー講座の講師を引き継いでもらえないかとお話がありました。その講座は私が師匠に出会った場でした。

最初はかたくなにお断りしたんです。「私では力不足です。もっと勉強してからでないと」と。すると、「そんなことを言っていたら、いつまで経ってもできません。教えながら、自分も学んでいけばいいんです」と師匠がおっしゃり、確かにそうかもしれないと思いました。それでも決心がつかなかったのですが、背中を押したのは、夫の「あんたならできるよ」というひと言でした。

師匠のお仕事を引き継ぐというのは、私にとって崖を飛び越えるようなものでした。でも、一度足を踏み切ったら、ブロックが完全に外れてしまって(笑)その先には今までと違った景色が広がり、2022年4月には自宅に焙煎工房までオープンしてしまいました。

コーヒーを飲みながら、家族で語らう時間がとても幸せ

「みさご珈琲」の講座卒業以来、コーヒー豆は師匠の工房で焙煎機をお借りして焙煎していました。だから、「いつか自分の焙煎機がほしいな」という気持ちはありましたが、焙煎機を置くにはそれなりのスペースや空調が必要です。お金もかかるし、買うにしても、物置くらいの小屋に置こうかなと考えていました。 

けれども素敵な大工さん夫婦に出会い、ご主人が建てた工房にひと目ぼれ。少しご相談してみたら、ご夫婦とも自分のお店を建てるかのように親身になってくださり、開業準備のあれやこれやまで教えていただいて。私のイメージで、とご提案いただいたデザインを見て、実現したくなったんです。 

工房の建築費は、あれだけ悩んで通いはじめた「みさご珈琲」の講座料とは桁違い。それまでの「天使のはしご」の売り上げで少しは頭金はあったものの、ものすごく悩みましたが、「あの時ああしておけばよかった」と後から後悔するより、やっぱりやってみたくて…。講座を申し込むより決断は早かったですね。 

あの時とまるで違うのは家族で笑い合う時間が増えたこと。工房が建ちはじめると、私以上にそわそわしはじめたのはなんと夫と次男でした。夫は仕事前に毎朝でき上がっていく工房の写真を撮り、次男も毎日コーヒーを美味しく淹れる研究をしはじめました。工房がオープンすると、次男は積極的に手伝ってくれるように。私がコーヒー出店で工房を空ける時は次男が店番をしてくれ、仕事から帰ってきた夫は、工房に来てドリップパック作りの手伝いをしてくれます。夜、3人で工房でコーヒーを飲みながら、その日あった出来事やコーヒーについて語る時間がとても幸せです。 

次男のあの言葉をきっかけに「自分探し」をしたけれど、なかなか見つからず、心のどこかで「何も楽しいことがないまま、ただ老いていくんだろうな」と思っていた時期もありました。でも、コーヒーに出合っていろいろな輪が広がり、徐々に人とのつながりが増えて、楽しく日々を送れるようになりました。 

私が作るコーヒーを美味しいと飲んでくれる人達がいる、応援してくれる人達がいる、家族がいる。「ああ、私、いつ死んでも後悔しないな。『楽しかった』と言えるな」って思います。工房の経営のことを考えると頭が痛いし、毎日ドタバタですが、私は今幸せです。

この記事についてのお問い合わせ

若者定着還流促進課人づくりグループ
電話:017-734-9133  FAX:017-734-8027

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