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更新日付:2024年12月17日 地域交通・連携課
AOMORI LIFESHIFT人財インタビュー22 米内山 幸孝 さん
人生でやり残したことは、「子どもと向き合うこと」。
72歳で免許を取得し、新米保育士(モンテッソーリ教師)として奮闘中
東京都内の認定こども園・保育士(モンテッソーリ教師)
1951年生まれ、東京都出身。早稲田大学商学部中退。飲食業界を経て渡米。さまざまな仕事を経験後に帰国し、翻訳家養成学校の責任者を務める。自身の体調不良を契機に40代で「氣圧療法」の施術所と合氣道教室で起業。ふとしたきっかけで70歳のときに保育士免許を取得。72歳で東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンターに2年通いディプロマ(3-6歳)取得。2024年より現職。
20~30代は、「面白そう」と思ったさまざまな仕事を経験
その後、親戚から声を掛けられ、海外にも興味があったのでロサンジェルスへと渡りました。働くことになった会社は、レストランを始め、ディスコ、不動産、映画関係など手広く事業を行っており、私もさまざまな業務を経験させてもらいました。もちろん英語の勉強もしました。
ただアメリカに永住するつもりはなかったので、2年後に帰国し、今度は翻訳家の養成を行う会社に就職しました。アメリカと日本の文化の違いを実感し、異文化コミュニケーションに重要な役割を果たす翻訳業界に興味を持ったからです。ここでは総務や経理の仕事を担当し、大阪の翻訳家養成学校に異動してからは、責任者としてマネジメント、広告・宣伝といった業務も担当しました。
40代は「人の役に立つ仕事」を志し、合氣道の世界で起業
次の仕事を模索する中で体調を崩し、1か月経っても原因がわからず、学生時代にやっていた合氣道の道場を訪ねることにしました。そこで出会ったのが「氣圧療法」という治療法でした。氣を送って心身の不調を改善する方法で、心身統一合氣道(藤平光一が創始者の合氣道の一流派)に基づいた健康法です。
さっそく氣圧療法が学べる講座に通い始めました。講座では医学的な講義のほか、生徒同士で実践し合うのですが、私の施術は評判がよく、たくさんの人に喜んでもらえました。「これなら人様の役に立てるのではないか」と自信が出てきて、「氣圧療法」を仕事にすることに決め、43歳のときに「よないやま氣圧療法研究所」を開設しました。
治療にいらっしゃるのは、痛みのある方や精神的に不安定な方、西洋医学では治療法がない方が多かったです。私は背中や頭に手を当てて差し上げることで氣を送ります。また、身体の使い方や気持ちの整理の仕方といったお話をしたり、呼吸法を指導したりするなどして、心身の不調の改善をサポートしてきました。その後、心身統一合氣道荻窪武蔵野教室を立ち上げ、合氣道の指導員として稽古も行うようになりました。
定年退職後に保育士となった男性に影響を受け、試験勉強を開始
そんなとき、たまたま定年退職後に保育士となった男性のテレビ番組を見る機会がありました。そして「自分が人生でやり残したことはこれかもしれない」という思いがわいてきたのです。私は独身で子育ての経験がなく、それまで子どもと向き合ったことがありませんでした。合氣道で子どもを教える機会はありましたが、納得のいく形で子どもたちの成長の助けができなかったという思いも持っていました。
その番組を見て、65歳でも保育士になれるという事実に勇気づけられ、まずは保育士免許を取得しようと思ったのです。私は当時69歳でしたが、保育士試験には年齢制限は設けられていませんでした。過去問題を解くことから勉強を始めましたが、SNSで公開されていた科目試験の対策ポイントも役立ちました。楽器店で保育士試験対策コースのピアノレッスンを受けて、実技の練習もしました。こうして足掛け2年、70歳で保育士免許を取得できたのです。
70歳での就職は難しく、モンテッソーリ教育を学ぶことに
モンテッソーリ教育とは、イタリア初の女性医師であり、精神医学者、社会改革者、フェミニスト、平和主義者でもあったマリア・モンテッソーリ(1870~1952)が、子どもの発達を援助するために実践した教育です。その精神性の深さに感銘を受けたのですが、私が指導してきた合氣道との共通点もありました。モンテッソーリ教育の場合、子どもが言うことを聞かないのは、本来の子どもから横に逸れているだけで、その障害となっているものを取り除いて、本来の姿に導くのが教師の役目だと考えます。合氣道も、トレーニングを頑張るのではなく、その人が持っている力を妨げてるものに気が付いて外していく、そうすると、本来の力が身体的にも精神的にも表れてくるという考え方です。どちらも表面的に見えているものではない、本来の姿を追求するところが似ていて、モンテッソーリ教育にすっと入っていくことができました。
2022年から町田にある東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンターの夜間部に週2回、2年間通い、国際モンテッソーリ協会が認定する国際資格であるディプロマ(3-6歳)を取得しました。クラスの生徒は20代女性が中心ですが、1割は男性でした。40代、50代の女性もいましたが、私は70代の男性という異色の存在で、同級生の皆さんには驚かれました。
学校では130種類の教具をわかりやすく子どもに提供する方法を学びます。実技試験ではその130種の中から、くじ引きで4つの分野を指導しなければならず、試験の2カ月前からはほぼ毎日学校に来て、同級生と練習をしていました。
就職活動は希望を出すとトレーニングセンターが斡旋してくれます。年齢にとらわれない考え方で、無事に就職先が決まり、現在はこども園に契約社員として週3日、8時30分~14時まで勤務しています。
心の声を聞いてやり残した仕事をまっとうする
実際に働いてみると、覚悟はしていましたが大変です。子どもはみんなかわいくて楽しいのですが、いろんな子どもがいるので、ひとりひとりに合わせてサポートしなければなりません。子どもは大人だったら遠慮して言わないことをはっきり言いますし、ハッとさせられることも多いです。
精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスは著書『「死ぬ瞬間」と死後の生』(中公文庫)の中で、「あなたの教師は変装して現れます」と述べていますが、今の私にはまさに子どもたちが教師です。同著では次のような文章もあります。「学ぶべきことはいずれにせよ何らかの形で学ばなければならないということ、そして、学ばなければならない理由はあなた自身にあるということです」。
私だけでなく、多くの方は人生でやり残したことを持っているのではないでしょうか。定年後、心の声を聞いて、発見したことがあれば、ボランティアでもいいのでやってみるのがよいのではないかと思います。私も保育士免許を取得したら仕事に就けると思っていたわけではありませんが、そこからさらに興味を深めていくことで、保育士として働けるようになり、大きな学びをもらっています。
私自身の経験から言うと、病気やケガがきっかけで心の声に気づくことも多いと感じています。病気やケガはしたくないですが、限りある命や健康の大切さを実感することで、自分が本当に望んでいることが見えやすくなる機会でもあります。一方で、世間にあふれているさまざまな情報が心の邪魔をします。スマホやネット、SNS、テレビ、新聞などから週に一日でも離れる習慣をつけておくと、“聞こえる心”を調えることに近づくのではと推測します。
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