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更新日付:2009年4月7日 地域生活文化課

青森県民俗の風呂敷03「青森のまじない各種」

青森県の民俗について写真とともにご紹介するコーナーです。   民俗部会担当 清野耕司

まじない?
 まじない(呪い)とは、霊的 存在や呪力(じゅりょく)などの超自然的要素を用いて自然や 環境に働きかけ、何らかの願い事を実現させようとする観念および行為(日本民俗大辞典/吉川弘文館)とされています。
 科学が高度に発達した現代に 生きる私たちにとっては、非科学的かつ非合理的な取るに足らない迷信として扱われがちですが、今回は、青森県史民俗編から、この「まじない」に焦点をあててみましょう。
 そこには、先祖たちの願いや生き様、現代の私たちにも連綿と受け継がれている世界観が垣間見えるかも知れません。

 ●これは何のまじない?

 柱に貼られた「十一月十一日」と書かれた何枚もの紙片。これは、三戸郡南部町のとあるお宅の出入り口や二階の戸袋に貼られていたものです。毎年十一月十一日に新たに書いた紙を貼り足すそうです。さて、この紙片の正体は?
答えはこのページの一番最後にあります。

穴石
 ●眼病平癒
 
 下北郡の各地では、石や貝殻に穴をあけ糸を通して薬師様に供えると目がよくなるとされています。東通村白糠の薬師堂の御神体は、木彫の薬師如来像で目の神として信仰され、お堂には「願いが通る」といい、穴のあいた石にひもを通した穴石が奉納されています。


写真は、穴石です(東通村白糠での撮影)。

 
 ●母乳にまつわる祈願

 むつ市川内町銀杏木には、イチョウの大木があり、乳の足りない人はさらしの袋に米を入れて、このイチョウの木に縛って拝み、持ち帰って、ご飯を炊いて食べたといいます。これは、木の霊力を頼みとするまじないと思われ、津軽地方ではイチョウの他に、タモやイタヤの木などが対象となる場合もあります。
樹齢を重ねたイチョウは、垂れ下がった気根(きこん)を持ち、それと乳との連想から、全国的にみられる信仰のようです。

マユダマ
 
 ●豊作祈願

これも全国的にみられる正月の作り物です。マユダマやアワボ・ヒエボ・イナボなどは、それぞれの豊作を願い、あらかじめ、繭(まゆ)や粟・稗・米が多く実った様子に見立て、柳やミズキの枝に餅などをつけて飾ります。

写真は、東通村鹿橋のマユダマです。
庭田植え
 


 庭田植えも、屋敷の裏の雪の上で田植えの真似ごとをする予祝(よしゅく)儀礼で、まじないの一種といえます。
 これらは、「結果は原因に似る」という類似の原理に基づくまじないとも考えられています。

写真は、東通村大利の庭田植えです。

五月節句の菖蒲
 ●悪魔よけ

 五月五日には、各家で鬼を寄せつけないようにするため、軒に菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)をさします。これは、菖蒲・蓬には災厄や疾病を払う力があるとする古代中国の習俗の流れをくむまじないといえるでしょう。
 むつ市奥内では、子どもたちが菖蒲の根元を結び束にしたもので、道を通る人々の背や尻をたたいたそうです。たたかれた人は一年間病気にかからないといわれています。五所川原市など津軽地方では、二尺ほどの菖蒲と蓬を細縄で縛り、男の子どもたちが「モグラモチニゲロ」などと唱えて道を打ちながら歩きました。


写真は、八戸市笹子での事例です。
トシナ
 


 また、上北地方の集落では、春の彼岸中に木製の刀や杵(きね)、野バラなどのとげのある枝などを挟んだ、トシナ(しめ縄)を村の境界の道に張り渡す習俗があります。集落に悪いものが入ってくるのを防ぐためと考えられます。


写真は、十和田市板ノ沢のトシナです。

鹿島流し
 ●送る・流す

 私たちの生活に害をなすものを、まじないによって積極的に追い出してしまおうという習俗として、虫送り・ボーの神送り・鹿島流しなどがあります。害虫・疫病などの災厄を集落の外に送り出したり、川や海に流すための方法が、まじないの要素を多く含んでいます。送り、流される象徴としてのわら人形や、その行列を囃す笛や鉦(かね)・太鼓、行列の先頭で先払いをする荒馬や太刀振りは、現在でも伝承されています。


写真は、深浦町大間越で行われた鹿島祭りの鹿島流しを撮影したものです。

 ●呪文など

 まじないには、言霊(ことだま)信仰を背景とした、ことばの力によるものも多数あります。呪力の発揮を期待して唱えられたり、札や身体などに書かれたりすることばが呪文です。
むつ市大畑町の血止めのまじないは「大きい山越えて小さい山越えて、アブランケソワカ、アブランケソワカ、アブランケソワカ」と三回唱えるそうです。他にも、キツネにだまされない、のどのとげ抜き、蛇よけなど種々のまじないのことばや歌がありました。

 ●最後に

 このように、全国的なものから青森県に特有のものまで、多種多様な「まじない」があることがわかります。ここには上げませんでしたが、「丑の刻(うしのこく)参り」などの「のろい」もまじないの中に含まれます。
 まじないの背景には、時代ごとの信仰や世界観があります。人間や自然をどのようにとらえ、種々の現象をどのように考え対処しようとしたのか、一見、非合理的で無意味に思える「まじない」という行為にも、日本文化の一面が隠されているようです。


 ★何のまじない?(答え)

 これは泥棒よけのまじないと考えられます。「十二月十二日」を石川五右衛門が釜ゆでの刑に処せられた命日として、その日を書いた札を逆さまに貼ると泥棒よけのまじないになるそうです。逆さまに貼るのは、家に侵入した泥棒が天井から逆さまにのぞき込んだときに、読めるようにとのことです。
 写真は、「十一月十一日」で、逆さまでもありません。詳しい事情は不明ですが、この「石川五右衛門の命日」説に関係がありそうです。

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